「ねぇ不破くん」
緩やかなカーブを描いて島の内陸部へと下っていく丘の裏側、海沿いへの傾斜は打って変わって急だ。
頂上と裾の丁度中間点の辺りに張り出した巨大な岩の陰、草地に寝転んで夜空を見上げていた杉原は、隣で眼を瞑っている不破の名を呼んだ。
「何だ?」
「ああ、起きてたんだ」
返った声に、彼は小さく笑う。
眼を開いた不破がいつもの無表情で寝転んだ杉原に視線を転じてきた。
あまりにも変化のないその瞳は、それでもいつだって優しいことを杉原は知っていた。誰も気づかないけれど、その瞳は揺るぎない強さと意思を持って、生あるものへの慈しみを隠している。
髪に触れてくる不破の手の感触に、杉原は静かに眼を閉じる。
「不破くんは、最期に逢っておきたい人や話しておきたい人、いる?」
紡がれる問いに、不破は杉原の髪を指に絡めたまま、思案気に空を見上げた。
静寂にアナログ時計の針の音が響く。
それは確実な死へのカウントダウン。
脳裏に順々に巡っていく知り合いの顔に眼を細め、不破は小さく吐息した。
「渋沢と風祭だな」
半ば予想していた答えに、杉原は声を立てずに笑う。
「うん、わかった」
眼を上げ、髪に触れた不破の手を捉えて、杉原は身を起こしそっとその指に口接けた。不破はそんな杉原に何も言わない。
ただ無機質な瞳が一瞬、和らいだような気がした。
杉原は不破と眼を合わせて、壊れそうな微笑を口許に刻む。
「その2人と逢ったら、時間をあげる」
「杉原」
「だから、約束して」
「杉原」
静止する不破には構わず、杉原は言葉を継いでいく。
「もしも僕と君が最後に残るか、僕が君の前で狂ってしまったとしたら」
微かに唇を触れて。
「僕のこと、殺して」
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