時は着実に過ぎていく。
銃声はもう何処からも聞こえなかったが、支給された武器はそれだけではないから、この静寂とも思える時の中で、今も確実に人の命が喪われていっているのかもしれない。
そう、大切な人の命さえも。
時を刻み続ける時計から眼を上げ、黒川は歩調を緩める。鞄の肩紐を固く握り込み、足を止めて背後を振り返った。
「いつまでついてくる気だ?」
低く紡いだ言葉に、近くの茂みが微かに揺らぐ。それは明らかに風ではなく。
「出てこいよ、鳴海」
「なんだよ、いつから気づいてやがった?」
声と共に現れた巨躯。
黒川はポケットに手を突っ込んだまま、ざっと鳴海の出で立ちを確認した。生身に見える角度には武器を持っておらず、方にかかっているのは黒川と同じ支給鞄。形が大きく変化している訳ではないから大型の武器ではないだろうけれど、銃を手にしもしもやる気であったとしたら、負けることはほぼ確実だった。
それでも、負けるわけにはいかなかったのだけれど。
「光の位置と足音を気にするべきだな」
バレバレなんだよと一口悪態をついて、黒川は鳴海に眼を合わせる。
妙な沈黙があった。
ざわり、と風に影が躍る。
「やる気か?」
先に問うたのは黒川だった。鳴海は薄く笑む。
黒川は眉を寄せ、ポケットに突っ込んだナイフの柄をそっと握った。
名前は解らないけれど、単なるサバイバルナイフと違い、明らかに人を殺す目的で作られたと判る代物だ。素人の黒川が見ても判るくらい殺傷能力に優れた形態をした、諸刃のナイフ。
鞘から静かに刀身を引き出して、黒川は右足を半歩引く。
「やる気なのはおまえの方じゃん?」
軽口を叩いた鳴海に黒川は応えない。
角度のためか光の加減か、鳴海からはナイフの形態が見えていないようだった。
隙が、ある。
ざわり。
強い風に捥ぎ取られた葉が、舞う。
ほぼ同時に地面を蹴った。
鳴海の右手にはスタンガンが青白い光をちらつかせ、黒川のナイフが月光を受けて鈍く輝きを増す。
鈍い、手ごたえ。
どろりと血が、指に流れる。
「悪いけど、俺はまだ死ぬ訳にはいかねぇんだよ」
低く囁き、躰を引く。
噴出した飛沫が辺りに飛び散り、頬に付着したそれは吐き気がするほど温かかった。
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