02.不知火  



   



その気さえあれば一日で一周できそうな小さな島だった。


四方を海に囲まれた島は東西に細長く丸みを帯びて、南に位置する崖が引き込むように落ち窪んでいる。






南西の方角へ緩やかに下る土の街道を、中西はのんびりと歩いていた。けれどそれは表面上のことであって、その実どこにも油断などはなかったのだけれど。


夜の闇は人の姿を隠すには十分に重かったし、開けた場所では逆に自分が狙われかねない。


その為か、今のところ危険はなかった。


無造作にベルトに挟み込まれた小銃(グロッグ)が歩くたびに上着の裾から見え隠れする。




雲と戯れる月の光が、地上にまでは届かないもののやけに明るく見えた。


それはここが都会でないという環境条件と同時に、少なからず心理的作用が働いていた為だろう。




不意に地面に足が沈んだ。砂浜に出たのだ。


寄せ返す波音が心地良く耳に届く。


波頭にぶつかった自然光で、黒い海は宝石が散りばめられたように綺麗だった。






「あ」






ゆらりと空気が揺れた。






「不知火」






美しい光景に思わず呟いた。




こんな時にお眼にかかるとは思っていなかったと、苦笑する。


これではまるで、おまえは帰れないと言われているようなものではないか。




「見たかったのは本当だけどね、だからって俺は簡単に死んだりしてやらないよ? 俺の願いはあいつとこれを見ることなんだから」




まだ願いは叶っていないから、死んでやるつもりはない、と。




口許にいつものシニカルな笑みを浮かべて誰にともなく宣戦布告し、中西は近づきつつある気配に銃を抜いて振り返った。








相手にやる気があろうがなかろうが、それが『彼』でないのならばどうでもよかった。




















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