青白く円なる月が頭上で冴え冴えとした光を放っている。切り立った崖の上には強い潮風が吹き荒れて、背後の森がざわざわと五月蝿く啼いていた。
周りにはまったく頓着せずに、青白い月光に身を晒して少年は薄い笑みを浮かべる。
それは鮮やかに美しく酷薄に、けれどこか自嘲の感の拭えない笑みだった。
支給された武器を掲げた少年の髪が、一際強く吹いた風に乱れ舞う。
彼は口許に笑みを刻んだまま、そっと武器に口接けた。
「さぁ、狩を始めようか」
森の中は闇が濃い。
見つかりにくい代わりに、常に周囲に気を張り巡らせていないと他人(ひと)が近づいてきても気づかない。闇と急襲に怯える精神は異常をきたし、そうして強制的にプログラムに参加させらせられた者たちはやがて人を手にかけるようになるのだろう。
《プログラム》
全国の中学3年生を対象に、無作為に選び出されたクラスが課せられる戦闘シミュレーション。殺人ゲームととも呼ばれるプログラムは、生き残ったたった一人だけが日常に帰ることの許される、言うなればサバイバル鬼ごっこだ。
見知ったもの同士、殺し合いをさせて、それでも国家には何かしら得るものがあるらしい。
『今回は特別プログラムなんだぜ』
彼はそう言った。
笑いながら、手にナイフを弄んで。
『3年とか学校とか限定じゃねぇの。人数も適当でいいって言われたし』
教卓に悠然と足を組んで腰掛けて。
『だからおまえらにした』
告げる声は普段と何ら変わりなく、浮かべられた笑みが何よりも綺麗に見えて、非常時だというのに思わず見惚れていた。
『ま、そんなことおまえらには関係ねぇか。どうせ一人しか生き残れねぇんだし』
その言葉に我に返って、続いて彼の唇が紡いだ科白に心が悲鳴を上げた。
『俺も参加するから。死にたくねぇやつはがんばんな』
鮮やかに笑って教卓を降り、流した視線の先で西園寺が笑っていた。
右手に拳銃を握り締め、最後に見た笑みを思い出しながら、渋沢は森の中を静かに進んでいく。バックの肩紐が肩に食い込んで、苛立ちが募った。
行く当てがあったわけではない。ただ地図も見ないで歩いていく方向には何があるとは知れずとも、呼ばれているような気がした。
それはヨ闇が見せる錯覚だったのかもしれないけれど。
梟の声がたわんで森を行き渡り、風に草葉がざわめく。
逢わなくてはならないと思った。否、単に逢いたかっただけなのかもしれない。
ただ逢うまでは死ぬわけにはいかなかったし、殺されるなら彼に殺されたいと思ったのは事実だった。
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