世界が回っている。 万華鏡のように。
降り続ける雨は動かないクラピカの躰を打ち冷やしていく。
ここはどこだろう?
ふと錯覚する。
平和だったあの頃と。 皆が生きていたあの大自然の中と。
大地の恵と大気の機嫌。 全てのものに宿る元素霊。
歩くだけでそれらが周りに寄ってきて、いつも護ってくれた。
( 会いたい…… )
( あの頃へ帰りたい…… )
緋の目を持ったがために幻影旅団に襲撃されたクルタ族。 その唯一の生き残りとして、護ってきた一族の誇りにかけて、彼らを倒す。
奪われてきたものも全て彼らの血と共に手中に収めることが、クラピカの大切な同胞を想う心。
けれどクラピカは戻りたい。 何もなくただ静かに暮らせたあの頃へ。
無駄な血など流したくはない。
返してもらえるだけでいい、皆を。
殺生など、争いなど、この世から消えてしまえばいいものを。
「 っ 」
「 気付いたか!? 」
閉じた瞼と唇から漏れた嗚咽の向こうで聴きなれた声がして、クラピカは目を開けた。
傷だらけのキルアが映る。
何故?
「 何故来た…… 」
「 オレが助けたかったからだよっ クラピカを死なせたくなかったからっ 」
やっと見つけた大事な光。
永遠にオレのものになれなんて言わない。
失くしたくはない想い。
もう誰も置いていかないで。
「 許さない。 オレを置いていったら。 あんたが消えたらオレは一生自分を許せないっ。 好きだから。 オレの前からあんたが消えたらオレ、どうしたら良いんだよっ!? 昔には戻りたくない…… 」
さんざん文句を並べ立たて、キルアはクラピカの首に腕を回した。
あんたまでオレを捨てていかないでよ。
温かいキルア。クラピカが惹かれた体温。
「 好きなのに、お前が。 …だからお前だけでも救いたかった 」
自分を犠牲にしてでもキルアを死なせたくはなかった。
やっと手に入れたずっと欲しかったものだから。
私はもう、ずっとお前のものなのだよ。
だからここにはいられない。
気付いたしまったから。君を想う気持ちに。
「 好きだから、離したのに、どうして来た? 」
「 好きだから、一緒にいたいから 」
そう想うことは自然なのに、そんな感情を今まで抱いたことなどなかった。 だからそれがひどく恥ずかしくて、けれど誇りたかった。
「 もう、私はお前といられない 」
「 どうし 」
その先を呑み込むようにクラピカはキルアの唇を塞いだ。
答えられる訳ないのだから。 自分でも分からないのだから。
好きなのに、そばにいられない。 好きだから、そばにいてはいけない。
いつかは別れなければならないのだから。 長く一緒には生きられないことがわかっているのだから。 必然的に離れる時が来るのだから、手放さなければならないものは最初からいらない。
手に入れた途端あっけなく崩れてしまいそうで。
いや手に入れたら、自分で壊してしまいそう。 永遠に自分の元から逃げ出せないように鎖で繋いで心を壊して、ただ自分だけを見るようにしてしまう。
そんな醜いものなど見られたくはない。
彼と過ごしたこの一瞬一瞬だけがこれから私が抱いてゆくもの。
実物はいらない、想い出だけでいい。
聖域を侵さないで        
微睡んでいたい。 想いの底で。
けれど私は生きている。
かぎりない(おり)の中で。






 

←back  +++  next→