雨。 雨。 雨。
どんよりと重くたれこめた低い雲から、細い銀の糸雨が降りてくる。
パシパシと濃緑の葉の上にリズミカルな音を立て、煌く虹色の光を僅かに放つ冷たい雫。
「 はぁ、はぁ、はぁ 」
白い吐息がけぶる空気の中に浸透していく。
先を急ぐゴンとレオリオの姿を遠く追いかけながら、クラピカはキルアの手を強く握った。
その直後。
「 うわぁ!? 」
濡れた草に足を取られ、クラピカは派手に転んだ。
「 ! 」
転んだ先は崖で滑りそこへと到達、落ちそうになったクラピカをキルアはかろうじて支えた。
「 くっ 」
雨と湿気で滑る手が微かな希望。
けれど冷えた躰、走り続け浪費した体力、滑る草に本来の力を発揮できない。
普段なら易々と助けられるものを。
握った手の先のクラピカ。
苦しそうに、それでも必死にキルアにしがみついているけれど、生きたいという希望の反面、死んでも構わないというように諦めに似た感情を瞳に宿していた。
「 っ 」
汗ばむ掌。 切ってしまった皮膚。
支えられない、これ以上。 話してしまいたい、この手を。
けれどクラピカを見れなくなるなら自分も共に逝った方が良かった。
キルアの表情にそれを見て取ったのか、それともただ救いたかっただけなのか、クラピカの唇が薄く開いた。
「 手を離せ。 お前まで落ちるぞ 」
「 今手を離したら、クラピカが死んじゃうじゃん 」
「 私は死など怖くはない。
私の同胞は皆死者の国に居るのだから。
そこへいけるならば、そんなもの怖くはない。
そして何より……私はお前を死なせたくない 」
「 ……… 」
「
もう、大切なものを失うことなどあってはならないのだ。
だから 」
「 だめだっ、あんたをほってなんか行けないよっ 」
キルアは首を握った。
( 死んでも離すものか )
その想いだけは確かで、離れそうになる指を握る。
「 ……キルア…… 」
何故わからないのだろう?
お前だけでも救いたかった私の心を。
死なせたくないオレの心を。
大切だから、失くしたくないから、通じ合わない想いがもどかしくて、それでも共通に持つものがたまらなく愛おしい。
人などいないこの場と瞬間に繋がれた手は離したくて離したくなくて、相反する感情が雨の中に溶けていく。
今自分の躰を流れている血を全て彼と入れ替えれたのなら、少しはわかるだろうか。
心が対外にあるのならば、そのうちを見せることでわかってくれるだろうか。
お前のことが。
あんんたのことが。
「「 好きなんだ 」」
するっ
ずっと求めいた。
自分には無くてこの広い世界探し続けていたものを持っている君を。
たぶん初めて逢った時から。
君だけが持っている温かさとか不器用な優しさとか。
欲しかった愛とか望みとか。
そんなものをずっと君に求めていた。
お前が好きだよ、キルア。
クラピカの微笑が闇の中に沈んでゆく。
離された手。
助けるためにキルアから離されたクラピカの細く白い指先。
残像だけがその場にあって、本当のクラピカはもうそこにはいない。
「 クラピカ !
」
君が好きだと、僕は知ってしまったから。
|