3年前、デジモン・ワールド。
「 太一、タケル知らないか? 」
「 え? いないのか? 」
休憩中の森の中、いつの間にか姿が消えてしまった弟を心配して、石田ヤマトは大木の幹にもたれて眼を瞑っている八神太一に問いかけた。
返ってきたのは、否で。
「 ああ。 ……オレ、探してくる 」
つ、と踵を返したヤマトの手を、太一は掴み、ずれたゴーグルを無造作に押し上げた。
「 トイレかもしんないだろ? もうちょっと待とう 」
「 10分、10分たつんだ 」
応えた声は少し泣きそうだった。
揺れる瞳に太一は深く溜息をつく。
ヤマトがどれだけタケルを大切にしているか、わかり過ぎるぐらいわかっているから。
「 わかった。 オレも一緒に捜すよ 」
「 太一……ありがと 」
「 ついてこないでって言ってるでしょ、パタモン!
」
「 でも、タケル 」
きっ、と振り返ったタケルに、パタモンは耳をパタつかせた。
「 いいから、ひとりにしてよ 」
「 タケル…… 」
とてとてと歩き出していく幼い背を、何故か追うことができなくて、パタモンは戸惑うように眼を伏せた。
この森には危険なデジモンはいないはずだ。
それにタケルの足では行ける範囲が限られているから、何かあってもすぐに駆けつけられるだろう。
地面につまづきながらも必死で離れようとするタケルに、パタモンはもと来た道を戻り始めた。
パタパタという羽音を耳に、タケルは歩いていく。
一人に、なりたかった。
じゃれあう兄と太一の姿を見ていたくなくて。
どうして? と思った。
何故血の繋がる自分よりも赤の他人である太一の方がヤマトを理解できるのだろう、と幾度も考えた。
その度にどうしようもない焦燥にかられて泣きたくなった。
これは何…?
おにいちゃんをとられてイヤなだけ?
同じ境遇で、自分には兄しか表には出せない複雑な心を理解してくれる人はいなくて、だから来るしいの?
それとも。
タケルはきゅ、と唇を噛んだ。
判っているから。 これが、何なのか。
兄を慕う想いはいつの間にか狂おしい欲望へと形を変えていたこと。
( はやく…… )
はやくボクを見つけて 。
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