とあるマンションの一室。
外の空気はすっかり暮れているというのに、その部屋は闇に染まったままだ。
暗い室内で、電話の留守電機能が点滅している。
青白い光りを放つテレビの前に、膝を抱えるように、人影がうずくまっている。
虚ろに画面を見つめていた少年は静かに立ち上がると、ベランダに通じる窓を引き開けた。
高い位置だからか、強い風が吹きつけてくる。
裸足のままベランダに出て、手すりに手を触れた。
冷たい金属の感触を、静かに感じる。
「 」
混じったイギリス人の血で、金茶色をした柔らかな髪を乱す風に、すぅ
と眼を細めた。
「 おにいちゃん…… 」
風に乗せた声は、すぐに夜に融ける。
『 父さん、今日は撮影で帰らないから、おいで 』
て、そう言ったのは兄の方なのに。
高石タケルは、こつん、と手すりに額をつけた。
す、と眼を伏せる。
今朝、教室で気付いたDターミナルに打ち込まれてた言葉。
しばらく逢っていなかったし、話もしていなかったから、声が聴きたくて、笑顔が見たくて、すぐに返事を打った。
返されてきた字に、泣きたくなる程兄の優しさを見た。
「 おそいよ…… 」
微かな文句。
わかっているのだ、本当は。
兄には兄の付き合いがあって、部活だってあるのだろうから。
それでも、責めずにはいられない。
いつだって、自分の方が兄を想ってる気がする。
兄の中で、自分はどのくらいの重さがあるのだろう。
早く帰ってきて欲しい。
温かい腕で抱き締めて 『 バカだな 』
って優しく囁いて安心させて。
今も、昔も、こんなにも兄の腕がないと自分は弱くなる。
もう、護ってはくれないのかと、何度思っただろう。
けれどそう思う度、図ったようなタイミングで腕が伸びてくる度に、心臓が痛くなる。
何故なのだろう。
抱き締められて、優しさに包まれて、それでもなお思う。
護ってほしい、と。 微笑ってほしい、と。
あの頃のように、ボクだけを見ていて。
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