序章  




痛い
左手首の古疵が、熱を持って疼く。



躰が千切れそうに痛んでいた。

脳の奥と心臓がきつく締め付けられて、酷く呼吸が苦しい。

手を伸ばせば届きそうなのに。

けれど、届かない。

指先が、叫んだ名前が立ち止まって欲しい人に届かない。

簡単なことのはずなのに、どうしても捕まえることができずに。



数瞬のすれ違い。

数センチの不可侵空間。

危うい時間軸と距離。



侵してはならない、それでも願う存在(もの)。



貴方がいれば、俺は他に何もいらなかったのに。

貴方が幸せなら、それで良かったのに。



求める想いは、けれど自分が思っていたよりずっと強くて。



穢らわしいですか?背徳ですか?

俺は狂っていますか?



俺のこと、嫌いですか?



結局は訊くことができなかった答。もう二度と返されることがない。

伝えてしまえばよかった。

たとえ返った答が拒絶や嫌悪だったとしても。



想いは今でも消化できないままだ。














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