「 あんたって、いつも何かから逃げてるよな 」
いったい何に怯えてるの?
何の感情も表すことのないキルアの瞳。
射すくめられるようなその視線から目が逸らせない。
「 答える必要などないな 」
口から吐き出された声はひどく掠れていた。
ひどく心が荒れて全身が粟立っている。
それ程その無機質な瞳と機会の響きに似た声は、クラピカを捉えていた。
心の奥深くにいるクラピカを捉えていた。
根付いてしまった殺人者への嫌悪感。死体への執着。誓った報復。
醜いどろどろした自分を、キルアは何の躊躇もなくすくった。
触れてほしくはない場所。見られたくはない場所。
必死で押し隠していたものにキルアはどかどかと土足で踏み込んでくる。
( きらいだ )
探るような、何もかもを見透かしてしまうような、あの真っ直ぐな視線。唇から無邪気に零れてくる核心を突いた言葉。
それらに幾度となく貫かれて痛みを感じる。
「 クラピカ、答えろよ 」
やめろっ
「 逃げるなよ 」
やめろ!
「 あんた恐いのか?認めるのが 」
「 やめろ!それ以上、言うな…… 」
がくがくと躰中が震えた。
ぎゅっと肩を抱く。
拒否した。肉体が拒否した。
認めなければならないのに。頭では理解しているのに。
それなのに拒んでしまった。まだ彷徨ってる精神が肉体に拒否反応を引き起こした。
( 私の心は、こんなにも脆いのか )
遠回しなそれにさえ、砕かれてしまうほどに、ぼろぼろと崩れてしまうほどに私の心は弱いのか。
崩壊 。
壊されていった命。がらくたのように叩きつぶされてしまった誇り。聴きいれられなかった虫の音のような哀願。
「 私はお前がきらいだ 」
お前のような殺人者が。お前のように私を暴いてしまう者が。
同類だから。
殺して殺されて………。我慢して偽って。
きらい。
自分を見ているようだ。
クラピカはキルアに歩み寄ると、彼を抱きしめた。キルアが抱き返してくる。
涙が溢れた。
あまりにも同類すぎて、近すぎて、きらいなのに求めていた。
自分を抱きしめてくれる手、包んでくれる人、優しい心。
そんなもの、このキルアにはありはしないのに、キルアのことはきらいなのに、好きだった。
「 クラピカ、オレ、あんたが好きだよ 」
「 私は、お前などきらいだ 」
「
だから好きなんだ。オレを好きな奴なんか興味ない。ずっと惹かれてるその瞳に
」
「
私はきらいだ。お前は生意気で勝手で、私と似すぎているから。お前を見ているとどんどん追い詰められていくっ。いつも核心をついて、そのくせそのまま放っていく、大きらいだ
」
「 素直だな 」
緋くなったクラピカの瞳。
拒んでいるのに受け入れてる。キルアを優しく包んでいる。
唇から発せられる言葉は甘く痺れる視線と融け合ってまるで麻薬。
離れられない、きらいだから。触れられない、好きだから。
今は君だけが同族……。
|