偽  



「 中西先輩 」
「 うん? 」
「 先輩は、運命って信じますか? 」
「 あ〜、どうしたのよ? いきなり 」
「 …………どうなんですか 」
「 う〜ん、信じない、かな。笠井はどうなの? 」
「 俺のことはいいです 」
「 おまえね〜 」
「 なんですか? 」
「 いや、俺に対してそんな口きけるのっておまえぐらいだよ。 いい度胸してる 」
「 うれしくありません 」
「 ほめてないし 」
「 わかってますよ 」
「 ほんといい度胸だね。俺に喧嘩売っても損するだけよ? うん? 」
「 そんなバカなこと、俺はしませんよ 」
「 ―――― ほんとおまえって俺には態度悪。 で? 猫被りの竹巳ちゃん? 話を続けようか 」
「 …………先輩だって、俺に対しては口も態度も悪いじゃないですか 」
「 俺の本質、先に指摘したのはおまえだよ。知ってる相手に仮面被る必要なんてある? 」
「 ………… 」
「 作ってるのって、結構疲れるからね。 おまえはスケープゴートだよ、笠井 」
「 ―――― 。 話、戻しますけど 」
「 運命、だっけ 」
「 はい 」
「 俺は信じないよ 」
「 聴きました 」
「 他に、何が知りたいの 」
「 先輩の論理。 運命を信じない理由(わけ) 」
「 ふぅん? なんとなく、じゃ納得しないよね 」
「 それじゃ答えになりませんから 」
「 理数系だね、笠井 」
「 茶化さないで下さい 」
「 そうだねぇ。俺指図されんのとか、人に道決められるのって嫌いなんだよね 」
「 みち…… 」
「 そ。 俺の道は俺だけのものだよ。 ―― 運命ってさぁ、笠井、神の導きだって言うよね 」
「 …………ええ 」
「 むかつくんだよね、その考え。 俺無神論者だし? 決められた道を大人しく進んでいくなんてバカのすることだと思うし、だからって自分勝手に進んでくんじゃ周りに迷惑だし行きたいところになんていけないから、その辺りの駆け引きは難しいかもね。 でもね、未来(うんめい)は自分で切り開くものだよ 」
「 ―――― 」
「出逢いだってそう。 惹かれあうことは運命だった? そんな考えは愚かだ。 出逢いは幾つもの偶然が重なったもので、それは1%にも満たない必然の確率だし、惹かれるのは深層心理の定義に引っかかってくるものだからね。 無意識に俺たちは眼にしたものを自分の定規で測ってる。 ……恋なんて、一種の錯覚なんだよ。 だから傷つけ合うんだし、愛していると言った相手とさえ別れてしまう。 そんなものを、運命って言える? 」
「 片方は堕とすための努力をするわけですしね 」
「 そうだろ? それのどこが決められている未来なんだ? 」
「 ……別れることも、運命だったのかもしれませんよ? 」
「 そうだとしても、自分の考えや行動、そう、たとえばこんな風に思うことさえも神の意思だったら最悪。 だから俺は運命否定派だよ 」
「 あの人と、出逢ったことも? 」
「 実力社会だからね。 運命なんて甘いもんじゃないでしょう 」
「 あの人を、好きだと思ったことは? 」
「 それだってきっと偶然の結果だ。 でもまぁ。 3年後も同じ気持ちでいれたとしたら、その時はあいつとのことは運命だって認めてもいいかもしれないね 」
「 3年後 」
「 そう。 これが本物だなんて保障はどこにもない。 俺はもともとどっちでもいける口だけど、あいつは多分違うからねぇ、それが思春期特有の感情じゃないなんて、笠井は言い切れるかい? 」
「 俺は…… 」
「 無理して答えなくてもいい。 ――ねぇ笠井? おまえはあいつが好きなんでしょう? こんなこと聴いたってムナシイだけじゃないの? それともあいつが幸せならそれでいいって訳? 」
「 ―――― 」
「 偽善者 」
「 っ 」
「 そういう愛し方が間違ってるとは言わないよ。 気に食わないけどね。 でもね、そんな感情ってどこかで嘘だよ。 無償の愛(アガペー)なんて、親子間でしか成立しない。 そういう関係ですら、成り立たない場合だってあるしね 」
「 そんなことっ 」
「 ないなんて言い切れないよね? 笠井の中には汚れた感情も同居してる。 俺にははっきり判るぜ? それは本人が一番解ってると思うんだけど? 」
「 ………… 」
「 見て見ないフリなんて、それが偽善以外の何だって言う? なぁ? 」
「 ……中西先輩、俺も運命なんてないと思ってるんです。あったとしても、それは一方通行な道でしかないかもしれないって 」
「 ―― それで? 」
「 俺は、あの人が好きです。 俺のものにしたいって思います。 でも幸せになって欲しいのも本心なんです。 確かに嫉妬や独占欲や、そんなどろどろしたものがあって、自分でも吐き気がするほど偽善的だと思います 」
「 へぇ? 」
「 でもあの人は、あなたを好きになりました。 あなたが偽ってることに、あの人は鋭いから気づいているみたいで、でもそんなあなたに、あの人は惹かれてる 」
「 よくわかるね 」
「 それだけ、見てたから 」
「 痛い? 」
「 痛いですよ。 ……笑ってくれますけれど、可愛がってくれますけれど、俺といるときでもあの人の眼は気づくとあなたの姿を追っている。 あなたといるときの彼は凄く幸せそうで、自然体で、俺はずっとあなたが羨ましかった 」
「 ―――― 」
「 知っていますか? 知って、いましたか? あの人がどれだけ先輩のことを想っているか 」
「 ……知ってるよ。 いつだってあいつは真剣で。 ばか、だよね。 俺なんか好きになって 」
「 中西先輩!! それは、遊びだってことですかっ? 先輩は、あの人のこと……! 」
「 俺は、一度だって遊びの態度を取ったことはないよ。 でも、そうだね、もしかしたら物珍しいオモチャを手に入れたばかりの子供みたいにそれに執着してるだけで、いつか飽きてしまうのかもしれない。 好きだって、愛してるって、ただの勘違いかもしれないねぇ。 だって俺は本気の恋愛なんてしたことないから 」
「 先輩……、そんな中途半端な気持ちで、あなたはあの人を 」
「 いったでしょ、笠井。 恋なんてものは錯覚なんだって。 いつかは覚める夢。 永遠なんてこの世には存在しないから、人は必死で夢を紡ぎ続ける。 恋愛なんて、結局はそういうものなんだ。 自分の中の、穴を埋めたくて熱を求める。 見つけて、合わなくて、また探して。 それの繰り返し。 ……彼は、どうなんだろうねぇ。 俺を本気にさせてくれるのかな? 」
「 本気じゃないのなら、どうして 」
「 さぁ? ほんとは本気かもしれないじゃない。 少なくとも、今はあいつが一番大事だし? 」
「 ―――― っ 」
「 それで笠井? 結局おまえは何がいいたいわけ。 宣戦布告でもするつもり? 」
「 いえ、諦めたいんです。 吹っ切りたいんです。 ……俺、何日か前あの人から言われました。 中西先輩のことが好きだって。 あの人が俺の思いに気づいた上でそんなことを言ったのか、それとものろけただけなのかはわかりません。 けれど、あの人は優しいから、残酷なぐらい優しいから、気づいてたらい言わないと思うんですよね 」
「 そうだね 」
「 でも、それで俺は報われない恋なんてさっさと忘れてしまいたくて、でも、ダメなんです。 忘れられないんです 」
「 それで、俺にどうしろって言うの。これは運命だから別れろって? 」
「 そんなことは言ってないでしょう! 」
「 言われたって別れる気はないけどね 」
「 ……俺は、どこまで想いを引きずっていくんですか。 この後、あの人以上に好きだと想える人が、現れるっていえるんですか? どうしたら、この想いを消し去れるんだろう…… 」
「 ―――― ふむ。 そうだね、新しい恋でも、してみたら? 」
「 それができたら苦労はしませんよ 」
「 じゃあその場しのぎだけど、今この瞬間だけでも、忘れさせてあげようか 」
「 え……? 」
「 近くへおいで、笠井。 俺の可愛いオモチャ。 忘れさせてあげるよ 」









END









あとがき



書きたくなって書いてしまいましたが、どうなんですか。そんな気なかったのに、最後中笠チックですしね……。

いや、唐突に性格悪い中西が書きたくなってですね? その相手はきっと笠井しかできない、他の人じゃ返り討ちだって思いまして、kの2人の対話が実現したわけですが、なんか、ねぇ? これでこの2人が仲いいなんて設定は無理があろう、と急遽薫流の中で設定が追加された、なんてのはまた別の話。

まぁとりあえず、中笠も面白そうかもね。


ところであの人はお好きに想像してください。初めこそ三上のつもりでしたが、なんだか根岸でも近藤でも良くなってきました。