「 、望ちゃんに手を出したんだって?
」
「 え? 」
呼び出された星空の下で。
「
あっ、望ちゃんを受け入れた、の方が正しいのかな?
」
太極符印を胸に抱え、彼は問いを重ねる。
「 そうですね 」
視線を宙に彷徨わせて、 は答えた。
言葉の先で普賢が笑む。
「
でも、望ちゃんに手を出すときは、僕に一言断ってからにしてくれないかな
」
「 は? 」
「
だって望ちゃんを変な奴に任せるワケにはいかないもの。
信用のおけない人に僕の大事な望ちゃんはあげられない。
だからもしも君が、僕の信用に足らない者なら僕は君を認めないよ
」
「 ………… 」
は黙り込む。
しばらくの間、沈黙が続いた。
痛いような、苦しいような時、切なくて信じられない程長い、けれど本当は数秒でしかない沈黙。
「 ……君は 」
普賢が口を開いた。
「 君は望ちゃんのことをどう思っているの 」
「 私は、私は師叔を 愛しています
」
「 あぁ、良かった。
遊びだったらどうしようかと思っちゃった 」
「 まさか! そんな、師叔に失礼ですっ 」
「 うん。 君は自分の気持ちに素直なんだね。
本当の自分を望ちゃんに告白したくて、でも伝えた途端今までの関係が壊れそうでやだったんでしょ?
自分の中でそんなに望ちゃんが大きくなってたこと、気付いてたから望ちゃんを受け入れた
」
優しい声音が の心を暴いていく。
たぶん彼自身が知らないことを、気付いていないことを、普賢は知っている。
正体に対する負い目もそれ故止まらなかった哀しみの底から溢れる愛情も。
太公望に注がれるそれら全て。
その羨望のまなざしで。
無意識のその仕種が、普賢にはすぐわかった。
太公望を愛していることを。
太公望の中に自分にないものを求めてることを。
それだけ自分も見ていた。
「 これから君は、望ちゃんをどうしたいの?
……応え次第では、僕は君を殺すかもしれないよ 」
「 ……… っ 」
巧い言葉が見つかなくて、 は逡巡する。
普段使っている言葉がきれいに形容できない。
全ての言葉を忘れてしまったようで、今までで一番稚拙な文章を、単語を並べることでなんとか作り上げる。
「 私は、 共に、 いたい。 彼と、 彼を、
この手に、 抱いて、 生きていきたい 」
けれど作り上げられたそれは の深い想いが詰まっていて何よりも美しい。
向けられた瞳の中で普賢は微笑んだ。
「
望ちゃんが愛した人が、望ちゃんを愛してくれる人が君で良かった。
君になら任せられる。
望ちゃんを、これからの時間を 」
普賢は に歩み寄って彼を抱きしめた。
「 、僕たちの鼓動が重なっているのがわかる?
同志として、望ちゃんを愛する者として、僕は誓うよ、君たちを護るって。
ねぇ 、これからは君が、望ちゃんを護っていくんだよ、彼の隣で。
ずっとね。
望ちゃんが辛い時はいつもすぐそばにいてあげて 」
普賢は顔を上げた。
澄んだ瞳が今は涙に滲んでいる。
そしてその中に映る自分はとても頼りなげで、けれど凛とした強い意志の宿るその瞳の中の炎が彼を支える。
「 、後は頼んだよ。
望ちゃんを、決して離さないで…… 」
「 はい 」
しばらくは何も言えなくて、二人は見つめ合って、分かれる直前誓いの唇を交わして互いの在るべき場へ帰っていった。
明日は出会えない。 けれど普賢の心は に深く刻み込まれたから。
明日は出会えない。 けれど がこれからは彼を護ってくれるから。
だからもう一緒には歩けないけど許して。
いつも見てるから。
バイバイ、 望ちゃん。
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